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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)10456号 判決

原告

橋口徹志

ほか三名

被告

柏原孝志

ほか二名

主文

一  被告柏原孝志及び被告城本運送株式会社は、原告橋口徹志に対し、各自金七九九五万七八六二円及び内金七二六五万七八六二円に対する平成四年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告柏原孝志及び被告城本運送株式会社は、各自原告橋口修一及び同橋口和美に対し、それぞれ金三三〇万円及び内金三〇〇万円に対する平成四年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告橋口徹志、同橋口修一及び同橋口和美の被告柏原孝志及び同城本運送株式会社に対するその余の請求並びに被告城本武千代に対する請求をいずれも棄却する。

四  原告橋口友美の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、原告ら、被告柏原孝志及び被告城本運送株式会社に生じた費用の三分の二、被告城本武千代に生じた費用の全部を原告らの負担とし、原告ら、被告柏原孝志及び被告城本運送株式会社に生じたその余の費用を、被告柏原孝志及び被告城本運送株式会社の負担とする。

六  この判決の第一項及び第二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

1  被告らは各自、原告橋口徹志に対し、金二億四〇七九万二四二六円及び内金二億二三九〇万二四二六円に対する平成四年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは各自、原告橋口修一及び同橋口和美に対し、それぞれ金五九九万円及び内金五〇〇万円に対する平成四年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告らは各自、原告橋口友美に対し、金三六七万円及び内金三〇〇万円に対する平成四年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交差点における、原告橋口徹志(以下「原告徹志」という。)運転の原動機付自転車と被告柏原孝志(以下「被告柏原」という。)運転の普通貨物自動車の衝突事故に関し、原告徹志が右事故によって負傷し、後遺障害が残ったとして、原告徹志が自己の被った損害につき被告柏原に対しては民法七〇九条、被告城本運送株式会社(以下「被告会社」という。)に対しては民法七一五条一項(ただし、人損部分については自賠法三条も選択的に主張)、被告城本武千代(以下「被告城本」という。)に対しては民法七一五条二項にそれぞれ基づき損害賠償を請求し、原告橋口修一(以下「原告修一」という。)、同橋口和美(以下「原告和美」という。)及び同橋口友美(以下「原告友美」という。)が各人の固有の慰謝料につき、被告柏原に対しては民法七〇九及び同法七一〇条、被告会社に対しては選択的に民法七一五条一項ないし自賠法三条、被告城本に対しては民法七一五条二項にそれぞれ基づき損害賠償を請求している事案である(なお、原告らは弁護士費用相当額については遅延損害金の請求をしていない。)。

一  争いのない事実等(証拠により認定する場合には証拠を示す。)

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生(甲二、弁論の全趣旨)

(一) 発生日時 平成四年一〇月二七日午後二時ころ

(二) 発生場所 大阪市東住吉区杭全七丁目二番三二号先道路

(三) 加害車両 普通貨物自動車(なにわ一一き七五五〇)

右運転者 被告柏原

右保有者 被告会社

(四) 被害車両 原動機付自転車(八尾市ね二四六一)

右運転者 原告徹志

2  原告の受傷、入通院の経過

本件事故により、原告は頸椎損傷、頸髄損傷等の傷害を負い、以下のとおり五四八日間入院した(甲二九ないし三一、三二の1ないし9、三三の1ないし8、被告会社及び被告城本との関係では争いがない。)。

(一) 林病院 平成四年一〇月二七日(一日)

(二) 大阪大学医学部附属病院 同年一〇月二七日から同年一二月一六日(五一日)

(三) 星ケ丘厚生年金病院 平成四年一二月一六日から平成五年八月三一日(二五九日)

(四) 兵庫県立総合リハビリテーションセンターリハビリテーション中央病院(以下「リハビリテーション中央病院」という。) 平成五年八月三一日から平成六年四月二七日(二四〇日)

3  原告の後遺障害

原告の症状は平成六年四月二七日症状固定となったが、原告には自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表記載の等級(以下単に「後遺障害等級」という。)一級三号に該当する後遺障害が残った(甲二九、七八の1、2、弁論の全趣旨、被告会社及び被告城本との関係では争いがない。)。

4  当事者

(一) 原告修一及び原告和美は原告徹志の両親であり、原告友美は原告徹志の妹である(甲一)。

(二) 本件事故当時、被告城本は被告会社の代表取締役であり、被告柏原は被告会社の従業員であった(乙一、丙一、弁論の全趣旨)。

5  既払金等

(一) 健康保険組合からの支払

原告徹志の治療費については、原告修一が加入している明治乳業健康保険組合(以下「健康保険組合」という。)から医療機関に対し一二四八万八三九〇円が支払われた(甲五五、弁論の全趣旨)。

(二) 損害のてん補

原告徹志は加害車両の任意保険会社である日産火災海上保険株式会社から一億〇〇〇二万円、また自賠責保険から三一二〇万円の合計一億三一二二万円の支払を受けた。

(三) 右健康保険からの支払のうち、一〇二二万二八八二円については原告徹志が受領した任意保険金から支払い、残りの二二六万五五〇八円についても原告徹志から支払がなされることになっている(甲五五、五九、七〇、弁論の全趣旨)。

二  争点

1  本件事故態様、過失相殺

(原告らの主張)

被告柏原は、加害車両を運転し、信号機により交通整理の行われている交差点を信号に従い西から南へ向かい右折するにあたり、折から対向車線上には渋滞中のため停止している車両が並列しており、かかる停止車両のうちの南側の車両とその南側の歩道との間には走行車線部分が空いており、同走行車線部分を対向進行してくる車両のあることが予測された上、加害車両からの見とおしが前記南側の停止車両によって遮られていたのであるから、右停止車両の前面で一時停止して対向進行してくる車両の有無とその安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠り、右停止車両の前面で一時停止せず、前記走行車線部分を進行してくる車両の有無を確認しないまま漫然右折進行した過失により、折から信号に従い右走行車線部分を対向進行してきた被害車両に気づかず、同車右後尾部に自車前部を衝突させて路上に転倒させたものである。したがって、本件事故は、被告柏原の一方的過失によって生じたものであり、原告徹志に過失はない。

(被告柏原の主張)

(一) 原告徹志の運転する被害車両が走行していた道路は、片側三車線の道路であり、本件事故当時は三車線全部に渋滞車両が停止していた。被告柏原は、対向三車線全部に車両が停止していたので、前方を注視しつつ、時速一〇キロメートル程度の速度で右折をしたところ、原告徹志が前記渋滞車両の脇を自らのハンドル操作によっては加害車両との衝突を避けられないほどの高速度で交差点に進入してきたため、被害車両と衝突してはじめて同車両を発見したものである。

このように、被告柏原は、右折に当たって十分に前方注視義務を尽くしていたものであり、被害車両が前記渋滞車両の脇からこのような高速度で交差点内に進入してくると言う異例な事態を予見することは不可能であったから、本件事故につき被告柏原には何らの過失もない。

(二) 仮に本件事故につき被告柏原に過失責任が認められるとしても、原告徹志にも速度違反、前方注視義務違反等の過失があるから大幅な過失相殺が認められるべきである。

(被告会社及び被告城本の主張)

鑑定結果によると、原告徹志運転の被害車両は、時速三五キロメートルから四〇キロメートル程度の速度で走行していたものであって、原動機付自転車の制限速度である時速三〇キロメートルより時速五キロメートルから一〇キロメートル程度超過しているところ、本件事故現場が交差点であることから、右速度超過は無視できない被害者の過失加算要素となる上、被害車両の進行方向の交差点手前には駐車車両があって、前方確認が十分できない状態にあったのであるから、原告徹志としてはより減速するとともに、より前方の安全確認をすべきであった。

以上からすると、原告徹志にも四〇パーセントの過失が認められるべきである。

2  被告城本の代理監督者責任

(原告らの主張)

被告城本は、被告会社の業務をもっぱら掌握し、同社の配送等を含む全ての業務を指揮監督し、被告柏原に対しても運転手としての選任及び日常の指揮監督を自らなしていたことから、代理監督者としての責任を負う。

(被告城本の主張)

法人の代表者は、その代表機関というだけでなく、現実に被用者の選任・監督を担当していたときに限って当該被用者の行為について代理監督者としての責任を負うと解すべきところ、被告城本は、被告会社の代表取締役ではあるが、個々の運転業務を直接指揮、監督している立場にはなく、代理監督者とはいえない。

3  原告徹志の損害

(原告徹志の主張(なお、原告徹志は治療費等についての既払分について、自ら各費目から控除した上で請求しているが、当裁判所が全体の損害額の確定後に既払分を控除する扱いをするときは、それを前提とした請求をする趣旨と解されるので、以下の原告の請求額は、原告が自ら控除した分も上乗せして扱ったものである。))

(一) 治療費

原告徹志は、健康保険あるいは保険会社から支払われた一八五一万六五五七円以外に以下のとおりの合計四万〇九五五円の治療費を支払った。

(1) 星ケ丘厚生年金病院への入院前の検査費等 五八八〇円

(2) 文書料及び転院のためのレントゲン料 一万九九五〇円

(3) 文書料 三六〇五円

(4) リハビリテーションセンター中央病院治療費 一万一五二〇円

(二) 入院雑費

入院期間五四八日間にわたり、一日あたり一三〇〇円が相当である。

(三) 付添費

(1) 大阪大学医学部附属病院における近親者付添費 二五万五〇〇〇円

5,000円×51日=255,000円

(2) 星ケ丘厚生年金病院における職業付添費

〈1〉 任億保険会社支払分 三一四万四六九六円

〈2〉 原告支払分 四九万六〇八二円

(3) 同病院における近親者付添費 一二万円

5,000円×24日=120,000円

(4) 同病院における付添人寝具代 六万三〇〇〇円

(5) リハビリテーション中央病院近親者付添費 六三万円

5,000円×126日=630,000円

(6) 近親者付添のための交通費 七七万九三五〇円

(四) 転院交通費 一万六三六〇円

(五) 特別器具等費用 一六万二〇五四円

(六) 医師、看護婦への謝礼金 一二万円

(七) リフト等費用

(1) レンタルリフト代 一〇万四〇六〇円

(2) テーブル購入費用 四六万七四五〇円

(3) リフト購入費用 五九万三二八〇円

(八) 家屋改修関係費用

(1) 平成五年七、八月分

〈1〉 原告ら宅一階居間和室を原告徹志の病室にするために洋室に改装し、その他一階の洋室や台所、廊下を車椅子で移動できるように全面改装した費用 四三五万円

〈2〉 〈1〉に伴う電気工事及び病室へのクーラー設置工事費用 七九万八〇〇〇円

〈3〉 車椅子のまま洗髪できるように洗面台を改装した費用 二二万八〇〇〇円

〈4〉 トイレや玄関、風呂場を車椅子で移動できるように工事をした費用 一九六万八〇〇〇円

(2) 平成六年四月分

〈1〉 一階を原告徹志のために使用するようにしたことに伴い、二階を応接間にもなるように改装した費用 四九万三八八五円

〈2〉 一階洋室及び台所にても原告徹志が車椅子で過ごせるようにクーラーを設置した費用 二四万六一七〇円

(3) 荷物等運搬費用 二一万六三〇〇円

病室を設け、一階を車椅子で移動できるように全面改修したため、原告らの住居内の荷物の一部が置けなくなり、それを親戚宅に搬出した。その運搬に右金額を要した。

(九) 自動車(ワゴン車)購入費用 二九七万七二七五円

原告らは従前の車を下取り売却して、主に原告徹志の通院に利用するためにワゴン車を購入した。

(一〇) 介護費用

原告徹志は、頸髄損傷のためほぼ全身が動かせない状態となり、生涯にわたり終日介護を要する状態となった。原告徹志は平成六年四月二七日退院し(職業付添人は同月一八日から付添い)、以降自宅で平日(及び一部の土曜日)の日中は職業付添人、日祝日(一部の土曜日)及び平日の夜間は原告修一、同和美らの付添を受けながら生活している。原告修一及び同和美の夜間の付添費用は二五〇〇円、終日付き添った場合の費用は五〇〇〇円とするのが相当である。

(1) 平成六年四月一八日から同七年八月三一日までの分

〈1〉 職業付添人費用 四四〇万八一四八円

ただし、平成六年四月一八日からの分

〈2〉 近親者付添費用

(a) 夜間分(三六九・五日) 九二万三七五〇円

(計算式)

2,500×369.5=923,750

(b) 全日分(一三一・五日) 六五万七五〇〇円

(計算式)

5,000×131.5=657,500

(2) 平成七年九月一日から同一〇年二月一〇日までの分

〈1〉 職業付添人費用 六二一万四六二七円

〈2〉 近親者付添費用

(a) 夜間分(六一〇日) 一五二万五〇〇〇円

(計算式)

2,500×610=1,525,000

(b) 全日分(二八四日) 一四二万円

(計算式)

5,000×284=1,420,000

(3) 平成一〇年二月一一日以降の介護費用 一億三一八六万八六六〇円

原告修一及び同和美両名とも介護による腰痛が激しく、年齢的なこともあり、近親者としての介護は近々不可能となる。平成一〇年二月現在原告徹志は満二三歳で平均余命は五四年であるところ、その将来の職業付添人による介護費用としては、少なくとも一日あたり一万四〇〇〇円は必要である。したがって、原告徹志の将来分の介護費用としては以下のとおり一億三一八六万八六六〇円が相当である。

(計算式)

14,000×365日×25.806=131,868,660

(一一) 将来分の通院治療費 七九〇万〇五〇〇円

原告徹志は、将来にわたって通院治療を継続する必要があり、そのために年間少なくとも三〇万円の治療費を要するので、平成八年五月以降の五六年間(原告徹志の平成八年四月時点での平均余命)の将来分の治療費は、以下の計算式のとおり七九〇万〇五〇〇円である。

(計算式)

300,000×26.335=7,900,500

(一二) 通院交通費

原告徹志は月二回の通院を要し、一回あたりのガソリン代は一五〇〇円である。

(1) 平成七年八月末までの分 四万八〇〇〇円

(2) 同年九月一日以降平均余命までの分 九四万八〇六〇円

(一三) 通院付添費

原告徹志の通院のためには通常の付添人の他もう一名必要であるところ、原告徹志は月二回の通院を要し、一回の通院に要する付添費用は三〇〇〇円である。

(1) 平成七年八月末までの分 九万六〇〇〇円

(2) 同年九月一日以降平均余命までの分 一八九万六一二〇円

(一四) 自宅療養中の雑費 一二六一万九三二七円

自宅で療養のための雑費については、日常生活に最低限必要なものの代金は別紙雑費一覧表記載のとおり月額二万五六五八円であるが、これに加え、眼鏡止めゴム、車椅子に敷くムートン代、洋服の手直し修理代のような臨時の支出、また体温調節できないため一定範囲の室温を保っための通常人よりも要する電気代分などを合わせると、原告徹志が自宅療養中に要する雑費としては一日あたり一三〇〇円を下回ることはない。そこで、原告徹志の自宅療養中の雑費としては、以下の計算式のとおり自宅療養開始時から平均余命までの五七年間分として一二六一万九三二七円が相当である。

(計算式)

1,300円×365日×26.595=12,619,327

(一五) 将来の特別器具等の購入費用

(1) 車椅子の費用 七〇万五〇七四円

原告徹志が使用する車椅子は、部屋用と入浴用の二台で、平成五年六月と同年一一月に購入した右車椅子の支払費用は計一〇万八六〇〇円である。この車椅子の耐用期間四年であるところ、原告徹志の平成六年四月二七日以降の平均余命は少なくとも五六年間はあるから、平成五年に購入して以降右期間に少なくとも一四台を購入する必要がある。これをホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して平成六年四月二七日における現価を算出すると以下の計算式のとおり七〇万五〇七四円となる。

(計算式)

108,600×(0.8695+0.7407+0.6451+0.5714+0.5128+0.4651+0.4255+0.3921+0.3636+0.3389+0.3174+0.2985+0.2816+0.2702)=705,074

(2) ベッド及びテーブルの費用 一五〇万〇一四〇円

原告徹志が使用しているベッド及びテーブルは耐用期間七年であるところ、平成六年に四六万七四五〇円で購入した右ベッド及びテーブルは、原告徹志の平均余命の間に少なくとも七回買い換える必要があり、これを(1)と同様に平成六年四月二七日当時の現価を算出すると以下の計算式のとおり一五〇万〇一四〇円となる。

(計算式)

467,450×(0.7407+0.5882+0.4878+0.4166+0.3636+0.3225+0.2898)=1,500,140

(3) 電動リフトの費用 二九三万〇三二八円

原告徹志が使用している電動リフトは耐用期間五年であるところ、平成六年に五九万三二八〇円で購入した右リフトは原告徹志の平均余命の間に少なくとも一一台購入する必要があり、これを(1)と同様に平成六年四月二七日の現価を計算すると以下の計算式のとおり二九三万〇三二八円となる。

(計算式)

593,280×(0.8000+0.6666+0.5714+0.5000+0.4444+0.4000+0.3636+0.3333+0.3076+0.2857+0.2666)=2,930,328

(4) ワゴン車の費用 六六五万〇四二四円

原告徹志が通院その他外出に使用するワゴン車は耐用期間一〇年であるところ、平成五年に購入したワゴン車は原告徹志の平均余命の間に少なくとも五台購入する必要があり、これを(1)と同様に平成六年四月二七日の現価を計算すると以下の計算式のとおり六六五万〇四二四円となる。

(計算式)

2,970,000×(0.6896+0.5128+0.4081+0.3389+0.2898)=6,650,424

(一六) 休業損害 五四万円

原告徹志は、平成四年三月ころより毎週日曜日スーパーマーケットでアルバイトをし、月三万円以上は得ていた。大学入学後も少なくとも同額の収入は得られたはずである。したがって、原告徹志の休業損害は以下の計算式のとおり五四万円が相当である。

(計算式)

30,000×18か月=540,000

(一七) 後遺障害逸失利益

(1) アルバイト分 六六万九九六〇円

原告徹志は、症状固定から大学卒業までの間は、少なくとも本件事故前に得ていた月三万円程度のアルバイト収入は得たはずであるので、この分の逸失利益としては以下の計算式のとおり、六六万九九六〇円となる。

(計算式)

30,000×12か月×1.861=669,960

(2) 大学卒業後六七歳までの分

原告徹志は、本件事故当時大学の受験準備中であって、翌春大学へ入学する予定であった。原告徹志は、本件事故がなければ大学卒業予定の二三歳から少なくとも年収三二四万八〇〇〇円(平成六年度賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働者・旧大、新大卒・二〇歳から二四歳)は得られたものであるから、同原告の大学卒業予定の二三歳から六七歳までの逸失利益は以下の計算式のとおり七四四五万三九〇四円となる。

(計算式)

3,248,000×22.923=74,453,904

(一八) 入院慰謝料 四四一万円

(一九) 後遺障害慰謝料 二五〇〇万円

(二〇) 物損 一二万〇七五五円

事故当時原告徹志が運転していた原動機付自転車及びヘルメット、サイクルロックは使用不能となった。本件事故当時の右各物件の評価額は以下のとおりである。

(内訳)

原動機付自転車 一一万二〇〇〇円

ヘルメット 五三五五円

サイクルロック 三四〇〇円

4 損益相殺の額

(被告会社及び被告城本の主張)

任意保険からの支払金一億〇〇〇二万円、自賠責保険金三一二〇万円及び健康保険組合からの一二四八万八三九〇円の支払の合計一億四三七〇万八三九〇円について原告徹志の損害から損益相殺すべきである。

(原告徹志の主張)

健康保険組合からの支払分一二四八万八三九〇円については、本来であれば任意保険から支払われるべきものであるところ、被告らが原告修一の加入している健康保険の使用を願い、同組合に対して本件事故により受領する任意保険金を、同健康保険組合が被告らに対し取得する求償請求権の弁済に優先して充当する旨の約定書を差し入れており、また任意保険会社も同組合に対し右金員の八〇パーセントの支払いを申し出ていた関係から、原告徹志は健康保険扱いで治療を受け、原告らが受領した任意保険金から被告らに代位して健康保険組合に対する支払をすることになり、その結果、原告らは平成八年七月三一日に受領した任意保険金から、被告らに代わって一〇二二万二八八二円を健康保険組合に弁済するとともに、残金二二六万五五〇八円についてもこれを被告らに代わって健康保険組合に弁済することを約したものである。このとおり、被告らは任意保険金よりまず、医療費の支払いを約束し予定していたものであるところ、原告に対し医療費を含めて一括して残りの任意保険金が支払われた。損益相殺とは、被害者が不利益を受けると同時に利益を受ける場合にこれを控除するという実質的な概念であるから、任意保険会社から直接医療機関に支払っていなくとも、支払を約した被告らに代り原告が任意保険から支払い、また支払うべき医療費を任意保険金から差し引いた金額を損益相殺の額とすることは当然である。

5 原告修一、同和美及び同友美の損害

(原告修一、同和美及び同友美の主張)

本件事故によって、原告徹志は一九歳にしてほぼ寝たきりの人生を過ごすことになり、原告修一、同和美、同友美も自らの人生も変えてしまうほどの衝撃を受け、介護の毎日は苦痛の日々であり、将来のことを考えられない生活を過ごしている。これに対し、被告らには誠意が見られず、訪問の約束を反故にし、電話で誠意のない発言をする等のこともあり、右原告らは筆舌に尽くしがたい苦痛がある。

右に対する慰謝料としては、両親である原告修一、同和美に対しては各五〇〇万円、原告友美に対しては三〇〇万円が相当である。原告友美も自らの大学受験期に両親を手伝って兄の介護をし、また将来両親が高年齢となったとき以降の唯一の肉親として、その肩に重い責任がかかることは容易に予想できる。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件事故態様、過失相殺)について

1  前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲二、三の1ないし18、検甲三の1ないし8、乙一、丙四、五、鑑定人中原輝史の鑑定の結果(以下「中原鑑定」という。)、原告徹志本人、被告柏原本人)及び弁論の全趣旨を総合すると以下のとおりの事実が認められる。

(一) 本件事故現場付近の概況は別紙「交通事故現場の概況(三)現場見取図」(以下「別紙図面」という。)のとおりである。事故現場は信号機による交通規制が行われている、東西に通じる片側三車線(ただし交差点の東側の東行車線は二車線)の歩道部分を除く幅員約二〇メートルの道路(以下「東西道路」という。)と南北に通じる片側一車線(ただし交差点の北側は車線の区分がない。)の幅員約八メートルの道路(以下「南北道路」という。)とがほぼ垂直に交わる交差点(以下「本件交差点」という。)の南側である。交差点の東詰、西詰、南詰、北詰にはそれぞれ横断歩道が設置されているほか、東西道路の南側と北側には幅約四・五メートルの歩道が設置され、東西道路の本件交差点西側には幅約一メートル、同東側には幅約二・二メートルの中央分離帯が設置されている。また、東西道路の制限速度は時速六〇キロメートルであり、駐車規制の規制がなされている。

(二) 本件事故当時、東西道路の東行車線は、本件交差点西側では三車線のうち外側二車線が、同交差点東側では二車線とも渋滞車両が停滞している状態であり、西行車線についても本件交差点西側では三車線とも渋滞車両が停滞しており、同交差点東側では内側二車線に渋滞車両が停滞している状態であった。東西道路の西行の一番歩道寄りの車線(以下「西行第一車線」という。)の本件交差点東側は渋滞車両が停滞していることはなかったが、本件交差点から車両二台分くらい東に入った地点に一台駐車車両があった。

(三) 被告柏原は、加害車両を運転し、東行車線の真ん中の車線を進行し、本件交差点手前約三〇メートル付近で一番中央寄りの車線(以下「東行第三車線」という。)に進路変更し、そのまま方向指示器を出して本件交差点に至り、対面の青色信号に従い、右折して南北道路に進入すべく、本件交差点西詰の横断歩道付近の別紙図面記載〈2〉の地点で右折を開始した。その後、交差点の中央付近の別紙図面記載〈3〉の地点まで進行し、いったん対向車両の通過待ちのため停止していたところ、西行の中央寄り車線及び真ん中の車線の対向先頭車が本件交差点東詰の横断歩道手前の地点(別紙図面記載〈甲〉及び〈乙〉の地点よりも後方の地点)に停止したため、被告柏原は自車の進行先である本件交差点南詰付近に目を移して進行を開始した。その際、前記のとおり本件交差点付近は渋滞車両が停滞していたのであるが、被告柏原の運転していた加害車両は普通乗用自動車に比べて運転席の位置が高く見通しが利くため、前方後方ともに見とおすことができる状況であった。

(四) 他方、原告徹志は、自宅から夕陽丘の図書館に向かうため被害車両を運転して西行第一車線を走行し、本件交差点を直進すべく、対面の青色信号に従い、時速三五キロメートルから四〇キロメートルの速度で本件交差点に進入した。

(五) 被告柏原は、前記停止位置から七メートルほど進行して交差点南側の西行の真ん中の車線上付近の別紙図面記載〈4〉の地点に至ったところ、加害車両の助手席側の窓に原告徹志及び被害車両の影が映るのが見えたが、制動する間もなく被害車両が加害車両右前面を掠める形となり、加害車両右側面パネルを原告徹志の身体の右側に、加害車両車体前面を被害車両右側面に接触させ、原告徹志及び被害車両を転倒させた。

以上のとおり認められる。

2  被告柏原は右認定に反し、本件事故当時は東西道路の西行車線三車線全部に渋滞車両が停止していたところ、原告徹志はこの渋滞車両の脇を制限速度に違反する高速度で走行し、交差点に進入したと主張し、甲三の6には、原告柏原が平成四年一〇月二七日実施の実況見分において右主張に沿う指示説明を行っていた旨の記載がある。しかしながら、まず西行車線三車線全部に渋滞車両があったという主張については、証拠(甲三の6、乙一、被告柏原本人)によれば、甲三の6における被告柏原の指示説明は、警察官から西行第一車線にも渋滞中の車両があったのではないかといわれ、被告柏原本人もそのようなことにした方が有利になると思って右警察官の述べた事実を認めてしまった結果によるものであって、被告柏原の記憶に基づく正確な指示説明ではないことが認められ、他に西行第一車線にまで渋滞車両があったということを認めるに足りる証拠はなく、このような事実を認めることはできないといわざるを得ない。また、原告徹志の走行速度についても、被告柏原は、原告徹志が自らのハンドル操作によっては被告柏原運転の加害車両との衝突を避けることのできないほどの高速度であったと主張し、その根拠として被害車両の衝突から転倒までの距離、車両及び路面上に残された擦過痕から窺われる衝突態様を挙げるが、中原鑑定はその鑑定手法及び内容において不合理な点がなく、他の証拠と矛盾する点もないので信用性は高いというべきところ、被告らの右主張によっても中原鑑定の信用性が弾劾されたとはいえず、被告らの被害車両の速度に関する主張もまた採用することができない。

3  被告柏原の過失及び過失相殺

前記1において認定した事実を総合すると、本件事故は、被告柏原が東西道路の東行第三車線から本件交差点を右折するに際し、西行第一車線を車両が走行してくるのは予見可能であったにもかかわらず、十分な注意を払わないまま進行した過失によって生じたものであるのは明らかというべきである。しかしながら、原告としても、自車の右側二車線上には渋滞によって停止している車両があったのであるから交差点内を右折してくる車両があるかもしれないことを予見して、交差点に進入するに際しては十分に速度を落とした上で進行することが期待されたというべきところ、原動機付自転車の制限速度を上回る時速三五キロメートルないし四〇キロメートルで本件交差点に進入した過失があったというべきであって、被告柏原のみに本件事故の責任があるとするのは妥当性を欠くといわざるを得ない。そこで、本件においては双方の過失の内容及び程度に本件事故が普通貨物自動車と原動機付自転車の事故であること等もしんしゃくして、過失相殺として原告徹志に認められる損害から二割を控除するのが相当である。

二  争点2(被告城本の代理監督者責任)について

1  前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(丙一、被告柏原本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件事故当時、被告会社は、運転手を五〇名程度抱える運送会社であり、被告城本は被告会社の代表取締役として経営業務及び営業業務全般を行うべき立場にあったこと、総務的な仕事は被告城本及び同被告の母親らしき人物が行っていたこと、個々の車両の配車については右の母親らしき人物が行っていたことが認められる。

2  ところで民法七一五条二項にいう「使用者ニ代ハリテ事業ヲ監督スル者」とは、客観的に見て、使用者に代わり現実に事業を監督する地位にある者を指称するものと解すべきであり、使用者が法人である場合において、その代表者が現実に被用者の選任、監督を担当しているときは、右代表者は同条項にいう代理監督者に該当し、当該被用者が事業の執行につきなした行為について、代理監督者として責任を負わなければならないが、代表者が単に法人の代表機関として一般的業務執行権限を有することから、ただちに、同条項を適用して個人責任を問うことはできないものと解するのが相当である(最高裁判所第三小法廷昭和四二年五月三〇日判決・民集二一巻四号九六一頁参照)。

これを本件についてみるに、右1認定の事実をもってしても、未だ被告城本が被告会社の営業及び総務的な業務を超えて、現実に被告柏原等の運転手の選任、監督まで行っていたとまでは認めることができず、他に被告城本がかかる業務を行っていたことを認めるに足りる的確な証拠もない。したがって、被告城本が同法七一五条二項にいう代理監督者に該当するということはできず、結局、原告らの被告城本に対する請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

三  争点3(原告徹志の損害)について(円未満切り捨て)

1  治療関係費 合計一五八五万七五一二円

原告徹志は、治療費として健康保険から一二四八万八三九〇円の支払いを受け、自賠責保険及び任意保険より合計三三二万八一六七円の支払いを受けた(以上争いのない事実)ほか、以下のとおり治療関係費を要したことが認められる。

(一) 星ケ丘厚生年金病院への入院前の検査費等(甲三九) 五八八〇円

(二) 文書料及び転院のためのレントゲン料(甲四六の1ないし5、弁論の全趣旨) 一万九九五〇円

(三) 文書料(甲四七) 三六〇五円

(四) リハビリテーション中央病院治療費(甲四〇の1ないし5) 一万一五二〇円

2  入院雑費 七一万二四〇〇円

入院期間五四八日間にわたり、一日あたり一三〇〇円をもって相当と認める。

3  付添関係費

前記争いのない事実等(第二の一)で認定の原告徹志の本件事故による受傷の内容・程度・症状の推移に証拠(甲三の8、一五、六〇、原告和美本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告徹志には本件事故後平成五年八月三一日の星ケ丘厚生年金病院退院までの間職業付添人ないし近親者による入院付添の必要性があったものと認められる。原告は、右の期間の外、リハビリテーション中央病院における入院期間も付添看護が必要であった旨の主張をしているが、本件の全証拠によっても原告徹志が同病院の入院期間中に医師から付添を受けるよう指示された事実は認められないのみならず、甲六〇の記載によっても同病院において原告徹志が具体的にどのような付添看護を受けていたのかも不明であるから、結局のところ、この期間の付添看護費については、かりに付添看護がなされていたとしても、本件事故と相当因果関係を有するものと認めることはできない。

なお、被告会社及び同城本は、大阪大学医学部附属病院は完全看護であるから同病院入院中の付添看護費用は認められるべきではないと主張するが、甲六〇及び弁論の全趣旨によれば、同病院入院中に、原告和美は、主治医から原告徹志を精神的に支えるため家族がコミュニケーションをとる必要がある旨の指示を受けていたことが認められ、そうだとすると原告徹志の治療効果を上げるために家族の付添が必要であったと認められるのであって、右被告の主張は採用できない。

そうすると、原告徹志の本件事故と相当因果関係を有する付添関係費は以下のとおりとなる。

(一) 大阪大学医学部附属病院における近親者付添費 二二万九五〇〇円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲六〇、原告徹志本人、原告和美本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告徹志の大阪大学医学部附属病院入院期間中、原告和美または同修一、同友美による付添看護を受けていたことが認められるところ、その費用としては一日あたり四五〇〇円が相当であるから、平成四年一〇月二七日から同年一二月一六日間の五一日間分の二二万九五〇〇円をもって相当と認める。

(二) 星ケ丘厚生年金病院における職業付添費 三六二万〇六二八円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲四三の1ないし5、四四の1、2、六〇)及び弁論の全趣旨を総合すると、星ケ丘厚生年金病院における付添人実費として任意保険会社から三一四万四六九六円が支払われ、原告徹志自身が四七万五九三二円を負担したことが認められる。なお原告徹志は、右の費用の外に平成四年一二月二一日から同月二九日、平成五年一月四日から同月一〇日までの各期間について、付添人紹介所への手数料として右期間内の職業付添費合計二〇万一五〇〇円の一割に相当する二万〇一五〇円を支払っているとして、その費用を請求しているが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

(三) 同病院における近親者付添費 一〇万八〇〇〇円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲六〇、原告和美本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、平成四年一二月二九日から平成五年一月四日までの七日間、平成五年二月一二日から同月一四日までの三日間、同年三月一八日、一九日、同年五月二日から同月五日までの四日間、同月二一日から二三日までの三日間、同年六月一八日から同月二〇日までの三日間、同年八月二九日、三〇日の合計二四日間にわたり職業付添人の介護を受けず、家族が付き添ったことが認められる。その費用としては、一日あたり四五〇〇円をもって相当と認めるので、本件事故と相当因果関係を有する星ケ丘厚生年金病院における原告徹志の近親者付添費は一〇万八〇〇〇円であると認められる。

(四) 同病院における付添人寝具代 五万七二六〇円

証拠(甲一七の1ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、星ケ丘厚生年金病院における付添人寝具代として、原告徹志は少なくとも五万七二六〇円を要したことが認められる。原告徹志は、右認定の費用のほかに平成五年八月六日から同年八月二八日までの付添人寝具代五七五〇円も請求しているが、右期間に原告主張の付添人寝具代を要した事実を認めるに足りる証拠はなく、原告徹志の右主張を認めることはできない。

(五) リハビリテーション中央病院近親者付添費 認められない。

前記認定のとおり、同病院における付添は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。

(六) 近親者付添交通費 認められない。

近親者が付添看護を行うために要した交通費については、近親者付添費においてすでに評価済みであるので、独立に損害として認める扱いはしない。

4  転院交通費 一万六三六〇円

甲四及び弁論の全趣旨によれば、原告が大阪大学医学部附属病院から星ケ丘厚生年金病院に転院するにあたり一万六三六〇円を要したこと、右費用は本件事故と相当因果関係を有するものであることが認められる。

5  特別器具等費用 一六万二〇五四円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲五ないし七の各1、2、八の1ないし3)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は治療期間中、頸椎装具、両短下肢装具、車いす、スポンジ等の器具を必要とし、そのための費用として、少なくとも合計一六万二〇五四円を要したことが認められる。

6  医師、看護婦への謝礼金 五万円

甲七九号証弁論の全趣旨によれば、原告和美は医師、看護婦への謝礼として合計一二万円を支払ったことが認められるところ、前記争いのない事実等(第二の一)で認定した原告の受傷の程度、治療経過等本件弁論に現れた一切の事情を考慮すると、社会通念上相当なものとして本件事故と相当因果関係を有する医師、看護婦への謝礼は五万円と認めるのが相当である。

7  リフト等費用 一一六万四七九〇円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲九、一〇、一一の1、2、六〇、検甲一の8ないし22、四、原告徹志本人、同和美本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告徹志は、リハビリテーション中央病院退院後においても四肢完全麻痺のためにベッド、介護用テーブル及び車いすを利用した生活を余儀なくされていること、ベッドから車いすに乗り移るのにリフトが必要であること、原告徹志は、リフトを購入するまでの間レンタルリフト代として一〇万四〇六〇円、ベッド、テーブル購入費用として四六万七四五〇円、リフト購入費用として五九万三二八〇円をそれぞれ支出したことが認められる。そうすると、本件事故と相当因果関係を有する原告徹志のリフト等の費用は一一六万四七九〇円であると認められる。

8  家屋改修関係費用

(一) 平成五年七、八月分 七一四万四〇〇〇円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲二〇の1ないし3、二一、二二の1、2、二三の1、2、二七、六〇、六二、検甲一の1ないし22、四)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告徹志は四肢の完全麻痺等の症状を伴う頸髄損傷の後遺障害を残したこと、そのため原告徹志の身体は手足の自由が利かず、体温調節もできない状態であること、原告徹志が日常生活を送るためには介護者による介護が必要であるが、原告徹志が介護者一名による介護のみで、原告徹志が現在生活している自宅(木造二階建て、一階に台所と洋室、和室、洗面所及び風呂等がある)における生活を可能とするためには、原告徹志の後遺障害の内容からみて、車いすのままで頭を洗うための洗面台を新たに取り付けるとともに右自宅のうちで介護の利便の点から最も原告徹志の居室に適している一階の和室を原告徹志の居室とし、そこを洋間に改造し、自宅内を原告徹志が車いすで移動できるように一階の台所、廊下などの床を改修する必要があったこと、原告徹志の居室には冷暖房装置を取り付ける必要があったこと、原告徹志がトイレや玄関、風呂場を車いすで移動できるように改造工事をする必要があったこと、一階居間和室、洋室、台所、廊下の改造工事費用として四三五万円を支出したこと、右工事に伴う電気工事及び原告徹志の居室へのクーラー設置、取り外し工事費用として少なくとも五九万八〇〇〇円の費用を要したこと、洗面台の改装費用として二二万八〇〇〇円を支出したこと、トイレや玄関、風呂場の改装費用として一九六万八〇〇〇円を支出したことが認められる。そうすると原告徹志の本件事故と相当因果関係を有する平成五年七、八月の改造費用は七一四万四〇〇〇円であると認める。

原告徹志は、電気工事及びクーラーの設置費用として七九万八〇〇〇円を要したと主張するが、右請求書(甲二三の1)の内訳を見ると代金の中にはテレビの代金やテレビ設置費用、電話設置費用も含まれており、これらの費用は本件事故と相当因果関係を有するものとはいえないところ、甲二三の1によればこれらテレビ、電話関係の費用は少なくとも二〇万円にはなるものと認められるので、原告主張の電気工事の費用から二〇万円を控除した前記認定額が本件事故と相当因果関係を有する費用というべきである。

(二) 平成六年四月分

(1) 二階を応接間に改装した費用 認められない。

原告徹志は、一階を原告徹志の居室としたことに伴って二階を応接間に改造する必要があったと主張し、証拠(甲二四の1、2)によるとそのための費用として四九万三八八五円を支出したことが認められるが、右改造は本件事故と相当因果関係を有する改造ということはできず、したがってそのために要した費用も本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。

(2) クーラー設置費用 一〇万円

前記認定のとおり、原告徹志は本件事故による後遺障害のため、体温調節が十分にできない状態にあり、原告徹志が居宅内で生活していくためには、クーラーによる温度調節が必要なことが認められるところ、証拠(甲二五の1、2、検甲一の10)及び弁論の全趣旨によれば、原告徹志は一階洋室にエアコンを設置し、配管工事を行うために、少なくとも一九万八〇〇〇円を要したことが認められる。原告徹志は右費用の外にも二分三分配管費用、エアコン取り外し費用、二階クーラー取り付け費用の合計四万一〇〇〇円をも請求しているが、右各費用は、本件事故と相当因果関係を有するものとはいえない。

ところで、クーラーを設置して原告ら居宅の洋室及び台所の空調をも行う場合には、原告徹志のみならず同居している家族の者もその利便を享受することになるのであるから、右認定のクーラーの設置費用一九万八〇〇〇円全額を被告らに負担させるべき原告徹志の損害とみるのは相当ではなく、結局、本件事故と相当因果関係を有する原告徹志の損害としては一〇万円をもって相当と認める。

(三) 荷物等運搬費用 二一万六三〇〇円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲二六、原告徹志本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告ら居宅一階に原告徹志の居室を設置し、一階を車いすで移動できるように改修したため、原告ら居宅内の荷物の一部が置けなくなり、それを搬出する必要が生じたこと、そのための費用として二一万六三〇〇円を支払った事実を認めることができる。

9  自動車購入費用 一五〇万円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲二八の1、2、検甲二の1ないし4、原告徹志本人、同和美本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告徹志はいわゆる全介助の状態であり、通院等の遠方への外出をするためには車いすを積める乗用車が必要であること、そこで原告修一は平成五年八月二六日に二二四万七五七五円で新車のワゴン車を購入したことが認められるところ、原告徹志の後遺障害の内容及びワゴン車は家族の便にも資することに鑑みると、自動車購入費用のうち被告らに負担させるべき金額としては一五〇万円が相当である。

10  介護費用

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲二九、六〇、六二、原告徹志本人、同和美本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告徹志には本件事故によりC6以下の知覚障害、運動障害、下肢自動運動不可、起立歩行不能、神経因性膀胱の各症状を伴う頸髄損傷の後遺障害が残ったこと、そのため原告徹志の身体は両腕を多少曲げる以外は手足の自由が利かない状態であり、食事、入浴、排便などの日常動作には常に介助を要するほか、三時間おきにカテーテルで採尿する必要があり、外出の際には必ず付添人が付き添わなければならず、ほぼ終日にわたり付添人が付き添うことが必要であること、退院した平成六年四月二七日以降、月曜日から金曜日までの朝九時から午後六時くらいまでは職業付添婦の付添看護を受けており、それ以外の時間は原告修一、同和美及び同友美による付添を受けていることが認められるところ、右平成六年四月二七日の退院までの期間は、実際にどのような付添が行われていたのか不明であるし、付添が必要であったことを認めるに足りる的確な証拠もないので、平成六年四月一八日から同月二六日(退院日の前日)までの期間については介護費用を認めることはできない。

ところで、甲六〇によると原告修一は明治乳業株式会社に勤務し、同和美は小学校教員をしており、いずれも職業に就いていることが認められるので、月曜日から金曜日までの日中は職業付添人に付添を依頼することが必要であり、介護費用としては家族の付添費の外、原告和美が定年に至るまでの間の月曜日から金曜日の日中の職業付添人の費用についても本件事故と相当因果関係を有する損害と認められる。そして、家族の付添費用については、原告徹志の生活のために介護用具が備えられ、自宅が改造されていることも考慮すると、一日中の付き添った場合については一日あたり四五〇〇円、夜間付添については一日あたり二〇〇〇円が相当であるので、原告徹志の介護費用は以下のとおりとなる。

(一) 平成六年四月二七日から同七年八月三一日までの分

(1) 職業付添人分(甲一二の2ないし49、四八の1ないし28、六五、弁論の全趣旨)(ただし、平成六年四月二七日から同月三〇日までの四日分については、甲一二の2の九日分合計八万一三六二円の九分の四と計算した。) 四二三万八三九六円

(2) 近親者付添費用

〈1〉 夜間分(三六〇日分) 七二万円

証拠(甲一二の2ないし49)によれば、標記期間に職業付添人が付き添った日が少なくとも三六〇日あった事実が認められるところ(甲一二の31記載の四・五日が何を意味するのか不明であるが、少なくとも四日は付添をしたものと認める。)、前記認定のとおり、右三六〇日については夜間のみ家族による介護を受ける必要があったものであり、その費用としては、前記のとおり一日あたり二〇〇〇円が相当であるから、この期間の夜間分の近親者付添費用は七二万円が相当である。

〈2〉 全日分(一三一日分) 五八万九五〇〇円

右の期間において、原告徹志が職業付添人の介護を受けず、終日近親者による介護を受けた日は少なくとも一三一日あったと認められ、前記認定のとおり、近親者が終日介護した場合の介護費用としては一日あたり四五〇〇円が相当であるから、この期間の全日分の近親者付添費用としては、五八万九五〇〇円が相当である。

(二) 平成七年九月一日から同一〇年二月一〇日までの分

(1) 職業付添人分(甲四五の1ないし35、六八の1ないし55) 六二一万四六二七円

(2) 近親者付添費用

〈1〉 夜間分(六一〇日分) 一二二万円

証拠(甲四五の1ないし35、六八の1ないし55)によれば、標記期間に職業付添人が付き添った日が六一〇日あった事実が認められるところ、前記認定のとおり、右六一〇日については夜間のみ家族による介護を受ける必要があったものであり、その費用としては一日あたり二〇〇〇円が相当であるから、この期間の夜間分の近親者付添費用は一二二万円が相当である。

〈2〉 全日分(二八四日) 一二七万八〇〇〇円

右の期間において、原告徹志が職業付添人の介護を受けず、終日近親者による介護を受けた日は二八四日あったと認められ、前記認定のとおり、近親者が終日介護した場合の介護費用としては一日あたり四五〇〇円が相当であるから、この期間の全日分の近親者付添費用としては、一二七万八〇〇〇円が相当である。

(三) 平成一〇年二月一一日以降の分

証拠(甲四五の1ないし35、六〇、六二、六八の1ないし55、原告徹志本人、同和美本人)によれば、事故当時、原告徹志は一九歳(昭和四八年六月一八日生)であったこと、同和美は四六歳(昭和二一年六月一三日生)であったこと、原告和美の職業は小学校教師であり、定年は六三歳とされていること、現在一年間に二六〇日程度職業付添人による介護を受けていること(前記認定のとおり一週間に月曜日から金曜日まで五日の割合であるから年間で約二六〇日となる。)、原告修一及び同和美とも介護による腰痛が激しい状態であることがそれぞれ認められる。

ところで、症状固定(平成六年四月二七日)当時の原告徹志の年齢は二〇歳であるが、二〇歳の男子の平均余命が少なくとも五七年とされていることは当裁判所に顕著な事実であり、本件全証拠によっても原告徹志には今後の平均余命期間の生存に疑問を投げかけるような兆候は認められないのであるから、原告徹志は平成一〇年二月以降少なくとも五三年間は介護を要することになるものと認められる。そして、右介護に要する労力等を勘案すると、この先原告和美が定年を迎え、さらにその後四年を経過するまでの間は近親者の付添看護を期待できるとしても(ただし、原告和美が定年である六三歳になるまでの一二年間については月曜日から金曜日までの日中は職業付添人による付添看護が必要である。)、その先については職業付添人による介護を受けざるを得ないものと認められるところ、右期間の職業付添人の費用としては、原告徹志が過去に受けた職業付添人の実績及び甲六九に照らし、日中付き添った場合は一日あたり八五〇〇円、全日付き添った場合は一日あたり一万四〇〇〇円であるとするのが相当である。

(1) 原告和美が六三歳になるまでの一二年間分(原告徹志が三六歳になるまでの分)

〈1〉 職業付添分 一七〇四万五七三〇円

原告徹志は、少なくとも一年間二六〇日は職業付添人による日中の付添看護が必要であり、その費用としては前記認定のとおり一日あたり八五〇〇円が相当であるから、右一二年間及び事故時から平成一〇年二月までの五年間の年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式によってそれぞれ控除し、この期間の職業付添人による介護費用の事故時における現価を求めると、以下の計算式のとおり一七〇四万五七三〇円となる。

(計算式)

8,500×260×(12.077-4.364)=17,045,730

〈2〉 近親者付添分

(a) 夜間分 四〇一万〇七六〇円

前記認定のとおり、職業付添人が日中介護する日については夜間のみ家族による介護を受ける必要があるところ、その費用としては一日あたり二〇〇〇円が相当であるから、右一二年間及び事故時から平成一〇年二月までの五年間の年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式によってそれぞれ控除し、右一二年間の夜間分の近親者付添費用の事故時における現価を求めると、以下の計算式のとおり四〇一万〇七六〇円が相当である。

(計算式)

2,000×260×(12.077-4.364)=4,010,760

(b) 全日分 三六四万四三九二円

右の期間において、原告徹志が職業付添人の介護を受けず、終日近親者による介護を受けることになる日は一年間に一〇五日であると認められ、前記認定のとおり、近親者が終日介護した場合の介護費用としては一日あたり四五〇〇円が相当であるから、右一二年間及び事故時から平成一〇年二月までの五年間の年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式によってそれぞれ控除し、この期間の全日分の近親者付添費用の事故時における現価を算出すると、以下の計算式のとおり三六四万四三九二円となる。

(計算式)

4,500×105×(12.077-4.364)=3,644,392

(2) 原告和美が六七歳になるまでの四年間分(原告徹志が四〇歳になるまでの分) 三三二万九三四七円

この期間は、終日近親者による付添看護を受けられるものと解されるところ、前記認定のとおり、近親者が終日介護した場合の介護費用としては一日あたり四五〇〇円が相当であるから、右四年間及び事故時から原告和美が定年になるまでの一七年間の年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式によってそれぞれ控除し、この期間の全日分の近親者付添費用の事故時における現価を算出すると、以下の計算式のとおり三三二万九三四七円となる。

(計算式)

4,500×365×(14.104-12.077)=3,329,347

(3) 原告和美が六七歳以降三七年間の分 六五一四万二二八〇円

この期間は全日職業付添人による付添看護が必要になると解されるところ、前記認定のとおり、職業付添人が終日介護した場合の介護費用としては一日あたり一万四〇〇〇円が相当であるから、原告和美が六七歳に達して以降の原告徹志の余命期間である右三七年間及び事故時から原告和美が六七歳になるまでの二一年間の年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式によってそれぞれ控除し、この期間の付添費用の事故時における現価を算出すると、以下の計算式のとおり六五一四万二二八〇円となる。

(計算式)

14,000×365×(26.852-14.104)=65,142,280

11 将来分の通院治療費 二二八万二二二四円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲五四の1、六〇、六二、原告徹志、同和美本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告徹志は症状固定後においても症状の悪化を防止するために通院治療を継続する必要があること、平成七年五月から平成八年四月までの一年分の治療費のうち七割は健康保険組合から支払われたが、その額は二三万〇九六五円であったことが認められる。前記認定のとおり、原告徹志の症状固定当時(平成六年四月二七日)の年齢は二〇歳であったが、二〇歳の男子の平均余命が少なくとも五七年とされていることは当裁判所に顕著な事実であるから、原告徹志は平成八年以降、少なくとも五四年間は通院治療を継続する必要があるものと認められる。

以上の事実からすれば、原告徹志は平成八年以降も五四年間は通院治療を継続する必要があり、その治療費(自己負担分)として少なくとも九万八〇〇〇円(230,965÷7×3)は要するものと認められる。そこで、右五四年間及び事故年から平成八年までの四年間の年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式によってそれぞれ控除し、この期間の通院治療費の事故時における現価を算出すると、以下の計算式のとおり二二八万二二二四円となる。

(計算式)

98,000×(26.852-3.564)=2,282,224

12 通院交通費 認められない。

原告徹志は、月二回の通院で一回一五〇〇円のガソリン代を要するとして、通院交通費を請求している。しかしながら、甲六〇によれば原告徹志は必ずしも月二回の割合の通院をしているわけではないことが認められ、証拠(甲一九の1、2)によっても、一回の通院に要する費用相当額がどの程度なのかは明らかとは言い難い。したがって通院交通費については、独立の損害として認めるることはできないが、その点については、慰謝料の算定に当たって考慮することとする。

13 通院付添費 認められない。

原告徹志は、通院のためには通常付添人の他にもう一名が必要であるとし、月二回の通院で、一回の付添人費用は三〇〇〇円であるとして通院付添費を請求している。しかしながら、前記12で認定のとおり、原告徹志は必ずしも月二回の割合で通院しているわけではなく、一回の通院付添に家族がもう一名付き添った場合の費用を三〇〇〇円としている根拠も明らかではないから、通院付添費を認めることはできない。ただし、証拠(甲六〇、検甲二の1ないし3、四)及び弁論の全趣旨によれば、原告徹志の通院時においては大変な労力を要することが推認できるので、その点については原告修一、同和美の慰謝料の算定に当たって考慮することとする。

14 自宅療養中の雑費 七七七万二五二六円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲六二、六三の1ないし9、原告和美本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告徹志は自宅療養において別紙「雑費一覧表」記載のセルフカテーテル、尿取り用ビニール袋等が終生必要であること、その費用は一か月当たり二万五六五八円であること、右費用は本件事故と相当因果関係を有するものであることがそれぞれ認められる。原告徹志は、右に加えて、眼鏡止めゴムや車椅子に敷くムートン代等の臨時の支出があるほか、一定範囲の室温を保つために通常人よりも電気代がかかるとして雑費としては一日当たり一三〇〇円が相当であるとしているが、右臨時の支出の具体的な中身や電気代がどれだけ余分にかかっているのかは本件の全証拠によっても明らかではないから、原告徹志の右主張を採用することはできない。

原告徹志の症状固定時の平均余命が少なくとも五七年とされていることは当裁判所に顕著な事実であるので、右二万五六五八円の一年分である三〇万七八九六円を基礎として、原告徹志の平均余命に対応する期間及び事故時から症状固定時までの年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式によってそれぞれ控除し、原告徹志の自宅療養中の雑費の事故時における現価を算出すると、以下の計算式のとおり七七七万二五二六円となる。

(計算式)

307,896×(27.105-1.861)=7,772,526

15 将来の特別器具等の購入費用

(1) 車いすの費用 六八万六〇二六円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲七の1、2、六〇、検甲一の4、21、22、四、原告徹志、同和美本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告徹志には部屋用と入浴用の二台の車いすが必要であること、平成五年六月と同年一一月に購入した二台の車いすの合計費用は一〇万八六〇〇円であったことが認められる。

身体障害者福祉法二〇条一項の規定を受けた厚生省告示の交付基準は車いすの耐用年数について四年と定めているところ、原告徹志の車いすの使用状況に照らすと四年ごとに買換えが必要であると認められ、原告徹志の症状固定後の余命期間と認められる約五七年間(前記認定のとおり)に少なくとも一四回は新しい車いすを購入する必要があると認めるのが相当である。

そうすると、原告徹志の将来分の車いすの費用としては、右一〇万八六〇〇円を基礎として各買換え期に対応する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除して算出された車いす代の合計額が本件事故と相当因果関係を有する原告徹志の将来分の車いす代ということになる(原告は最初の買換え期は症状固定後三年で訪れると主張しているが、症状固定時において先に購入した車いすを一年以上使用していたわけではないので、最初の買換え時期は症状固定の四年後とする。)したがって、原告徹志の本件事故と相当因果関係を有する将来の車いす代は以下の計算式のとおり合計六八万六〇二六円となる。

(計算式)

108,600×(0.833+0.714+0.625+0.555+0.5+0.454+0.416+0.384+0.357+0.333+0.312+0.294+0.277+0.263)=686,026

(2) ベッド及びテーブルの費用 一四〇万〇九四七円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲一〇、六〇、検甲一の13ないし22、四、原告徹志本人、同和美本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告徹志は自宅において療養を続けていくためにベッド及び介護用テーブルが必要であること、平成六年四月二五日にベッド及び介護用テーブルを四六万七四五〇円で購入していることがそれぞれ認められる。

甲八〇及び弁論の全趣旨によれば、ベッド等は税務申告上の減価償却資産としての耐用年数が八年とされていることが認められるところ、原告徹志のベッド及びテーブルの使用状況に照らすと、八年ごとに買換えが必要であると認められ、原告徹志の症状固定後の余命期間と認められる約五七年間(前記認定のとおり)に少なくとも七回は新しいベッド及びテーブルを購入する必要があると認めるのが相当である。

そうすると、原告徹志の将来分のベッド及びテーブルの費用としては、右四六万七四五〇円を基礎として各買換え期に対応する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除して算出されたベッド及びテーブル代の合計額が本件事故と相当因果関係を有する原告徹志の将来分のベッド及びテーブル代ということになる。したがって、原告徹志の本件事故と相当因果関係を有する将来のベッド及びテーブル代は以下の計算式のとおり合計一四〇万〇九四七円となる。

(計算式)

467,450×(0.714+0.555+0.454+0.384+0.333+0.294+0.263)=1,400,947

(3) 電動リフトの費用 一七七万八〇六〇円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲一一の1、2、六〇、検甲一の15ないし22、原告徹志本人、同和美本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告徹志は自宅において生活をしていくために、電動リフトが必要であること、原告徹志は平成六年に電動リフトを五九万三二八〇円で購入していることがそれぞれ認められる。

ところで、原告徹志の電動リフトの使用状況に照らすと、ベッド及びテーブルと同様に八年ごとに買換えが必要であると認められ、原告徹志の症状固定後の余命期間と認められる約五七年間(前記認定のとおり)に少なくとも七回は新しい電動リフトを購入する必要があると認めるのが相当である。

そうすると、原告徹志の将来分の電動リフトの費用としては、右五九万三二八〇円を基礎として各買換え期に対応する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除して算出された電動リフト代の合計額が本件事故と相当因果関係を有する原告徹志の将来分の電動リフト代ということになる。したがって、原告徹志の本件事故と相当因果関係を有する将来の電動リフト代は以下の計算式のとおり合計一七七万八〇六〇円となる。

(計算式)

593,280×(0.714+0.555+0.454+0.384+0.333+0.294+0.263)=1,778,060

(4) 車両の費用 三二七万六〇〇〇円

前記(第三の三の9)認定のとおり、原告徹志はいわゆる全介助の状態であり、通院等の遠方への外出をするためには車いすを積める乗用車が必要であること、原告修一は平成五年八月二六日に二二四万七五七五円で新車のワゴン車を購入したことが認められるところ、原告徹志の後遺障害の内容及びワゴン車は家族の便にも資することに鑑みると、自動車購入費用のうち被告らに負担させるべき金額としては一五〇万円が相当である。

ところで、自家用自動車の法定耐用年数が六年とされていることは当裁判所に顕著な事実であるところ、原告らの自動車の使用状況に照らすと少なくとも一〇年ごとに買換えが必要であると認められ、原告徹志の余命期間と解される約五七年間に少なくとも五回は新車購入の必要があると認めるのが相当である。

そうすると、原告徹志の将来分の車両費用としては、右一五〇万円を基礎として各買換え期に対応する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除して算出された車両代の合計額が本件事故と相当因果関係を有する原告徹志の将来分の車両代ということになる。したがって、原告徹志の本件事故と相当因果関係を有する将来の車両代は以下の計算式のとおり合計三二七万六〇〇〇円となる。

(計算式)

1,500×(0.666+0.5+0.4+0.333+0.285)=3,276,000

16 休業損害 四三万八四〇〇円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲四一の1ないし3、原告徹志本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告徹志は本件事故後、症状固定日である平成六年四月二七日までの五四八日間は全面的に休業を要する状態であったこと、本件事故当時スーパーマーケットでアルバイトをしており、平成四年一〇月分の給料は三万二一八〇円であったことが認められる。しかしながら他方、原告徹志本人によれば、原告徹志は、本件事故当時関西大学文学部受験のため浪人中であったことが認められ、難関校を目指していた原告徹志としては、本件事故がなくとも受験直前三か月程度はアルバイトができなかった可能性が大きく、本件事故当時得ていたアルバイト料を休業期間中にわたって得られたとは考えにくい。そこで、原告の基礎収入は一日当たり八〇〇円と認めるのが相当である。そうすると、本件事故と相当因果関係を有する原告の休業損害としては以下の計算式のとおり四三万八四〇〇円であると認められる。

(計算式)

800×548=438,400

17 後遺障害逸失利益

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲六〇、原告徹志本人、同和美本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告徹志は本件事故当時関西大学文学部の受験準備中で、本件事故当時も勉強をするために夕陽丘の図書館に向かっている最中であったこと、原告徹志の妹である原告友美は大学へ進学したこと、原告和美は学校の教師であることが認められる。以上の事実からすると、原告徹志は、本件事故がなければ平成五年(一九歳)には大学に進学し、四年後に二三歳で卒業した可能性が高いというべきであるから、原告の後遺障害逸失利益を認定するに際しては、右の前提に立って判断する。

(1) アルバイト分 六一万三〇八〇円

前記争いのない事実等(第二の一)記載のとおり、原告徹志には後遺障害等級一級に該当する後遺障害が残り、その労働能力を生涯にわたり一〇〇パーセント喪失したところ、本件事故当時スーパーマーケットでアルバイトをしており、平成四年一〇月分の給料は三万二一八〇円であったことが認められるところ(甲四一の1ないし3)、原告徹志が、本件事故当時浪人生でありながらアルバイトをしていたことに照らせば、大学入学後もアルバイトを行った可能性が高いというべきであり、原告徹志は症状固定後少なくとも二年間は、一か月三万円程度の収入は得られたものと認められる。したがって、右二年間及び事故から症状固定した平成六年までの二年間の年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式によってそれぞれ控除し、原告徹志の後遺障害逸失利益のアルバイト分の事故時における現価を算出すると、以下の計算式のとおり六一万三〇八〇円となる。

(計算式)

30,000×12×(3.564-1.861)=613,080

(2) 大学卒業後六七歳までの分 六六七八万五三七六円

前記争いのない事実等(第二の一)記載のとおり、原告徹志には後遺障害等級一級に該当する後遺障害が残り、その労働能力を生涯にわたり一〇〇パーセント喪失したところ、前記認定のとおり、原告徹志は本件事故がなければ二三歳で大学を卒業して就職したものと認められるので、原告徹志は二三歳以降六七歳までの間は、少なくとも平成六年度賃金センサス(産業計・企業規模計・旧大、新大卒・男子労働者・二〇歳から二四歳)の平均賃金である三二四万八〇〇〇円程度の収入は得られたものと認められる。

以上より、原告徹志の後遺障害逸失利益のうち二三歳以降の分については、右三二四万八〇〇〇円を基礎収入とし、二三歳から六七歳までの期間及び事故時から原告徹志が二三歳になるまでの期間に対応する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式によってそれぞれ控除し、原告徹志の二三歳以降の後遺障害逸失利益の事故時における現価を算出すると以下の計算式のとおり六六七八万五三七六円となる。

(計算式)

3,248,000×(24.126-3.564)=66,785,376

18 入院慰謝料 三二〇万円

原告徹志の傷害の内容、程度、入院の期間、治療の内容等本件弁論に現われた一切の事情を考慮して、右金額をもって相当と認める(原告徹志主張のとおり。)。

19 後遺障害慰謝料 二五〇〇万円

原告徹志の後遺障害の内容、程度等本件弁論に現われた一切の事情、ことに本件においては、将来に夢を持ち、大学進学を志していたにもかかわらず、事故によってかなわぬ体となってしまった原告徹志の無念さは察するにあまりあること、前記のとおり将来分の通院交通費が認められないこと等の事情を考慮して、右金額をもって相当と認める(原告徹志主張のとおり)。

20 物損 一二万〇七五五円

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲一三、原告徹志本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件事故により、本件事故当時原告徹志が運転していた被害車両は全損となり、ヘルメット及びサイクルロックも使用不能となったこと、各物件の評価額は、被害車両が一一万二〇〇〇円、ヘルメットが五三五五円、サイクルロックが三四〇〇円であったことが認められる。

そうすると、本件事故と相当因果関係を有する物損は、右各物件の評価額の合計である一二万〇七五五円であると認められる。

21 小括

以上認められる原告徹志の損害(弁護士費用を除く)は、二億五一七二万五二三〇円(うち物損が一二万〇七五五円)である。

四  争点4(損益相殺の額)について

前記争いのない事実等(第二の一)に証拠(甲五五ないし六〇、七〇)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告徹志の治療費について原告修一が加入している明治乳業健康保険組合から合計一二四八万八三九〇円が支払われたが、これは被告らと明治乳業健康保険組合との間で、被告らが本件事故により受領する任意保険金を同組合が被告らに対して取得する求償請求権に対する弁済に優先的に充当する旨の合意がなされ、同組合から支払がなされていたものであること、原告徹志は、右一二四八万八三九〇円の内一〇二二万二八八二円について、任意保険から直接受領した保険金から被告らに代わって支払ったこと、残りの二二六万五五〇八円についても原告徹志から支払がなされることになっていることが認められる。

ところで、明治乳業健康保険組合からの支払分である一二四八万八三九〇円に相当する原告徹志の損害賠償請求権は明治乳業健康保険組合に移転するから、これについては原告主張のとおり過失相殺の前に原告の損害額から控除するのが相当である。そして、健康保険組合が支払った金員を加害者からどのようにして求償するかは、本来的に健康保険組合と加害者の問題であり、被害者の関知する問題ではないから、被告らが明治乳業健康保険組合との合意の下で求償に当てる前提とされていた右一二四八万八三九〇円は、損益相殺すべき任意保険からの既払金にも計上するべきではないというべきである。

五  原告徹志の損害のまとめ

(一)  小括

以上のとおりであるから、原告徹志の本件事故と相当因果関係を有する損害(弁護士費用を除く。)の額は、二億五一七二万五二三〇円(うち物損が一二万〇七五五円)であるところ、前記(第三の四)の次第で健康保険組合からの給付分一二四八万八三九〇円を原告の損害からあらかじめ控除すると二億三九二三万六八四〇円となり、前記(第三の一)認定にかかる原告徹志の過失割合二割を右金額から控除し、さらに損益相殺に供することのできる既払金一億一八七三万一六一〇円を控除すると、原告徹志の損害のうち被告柏原及び被告会社に負担させるべき額(ただし弁護士費用を除く)は七二六五万七八六二円となる。

(二)  弁護士費用 七三〇万円

原告徹志がその権利実現のために、訴訟を提起、遂行するに際し、弁護士を委任したことは当裁判所に顕著な事実であるところ、事案の内容、立証活動の難易、認容額の程度等本件弁論に現われた一切の事情を考慮して、右金額をもって相当と認める。

(三)  まとめ

(一)に(二)を加えると七九九五万七八六二円となる。

六  争点5(原告修一、同和美及び同友美の損害)について

(一)  慰謝料

原告徹志の受傷及び後遺障害の内容、程度に鑑みるならば、原告修一、同和美の精神的苦痛は原告徹志の死亡の場合に比肩するものであったというのが相当であり、息子である原告徹志が一九歳という若さで本件事故に遭遇し、終生寝たきりとなり、原告修一らが介護をしなければならない状態となり、その介護のために労苦を強いられていること等本件弁論に現われた一切の事情を考慮すれば、原告修一、同和美の慰謝料は各三〇〇万円をもって相当と認める。

原告友美については、被害者死亡の場合に近親者固有の慰謝料請求権を有する立場にない以上、原告徹志が後遺障害を残した場合についても固有の慰謝料請求をすることはできないものといわざるを得ない。したがって、原告友美の請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。

(二)  弁護士費用 各三〇万円

原告修一、同和美がその権利実現のために、訴訟を提起、遂行するに際し、弁護士を委任したことは当裁判所に顕著な事実であるところ、事案の内容、立証活動の難易、認容額の程度等本件弁論に現われた一切の事情を考慮して、各三〇万円をもって相当と認める。

七  結論

以上のとおり、原告徹志の請求は、被告柏原及び被告会社各自に対して金七九九五万七八六二円及び内金七二六五万七八六二円(弁護士費用七三〇万円を控除した残額)に対する事故日である平成四年一〇月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告修一及び同和美の請求は、被告柏原及び被告会社各自に対してそれぞれ金三三〇万円及び内金三〇〇万円(弁護士費用三〇万円を控除した残額)に対する事故日である平成四年一〇月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告友美の請求は理由がないので、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦潤 山口浩司 大須賀寛之)

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